出逢えたから
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目暮警部たちから離れた新一は、刑事や生徒達の視線を集めることなく、ふらふらと歩き回る。
最初に向かったのは、仕掛けがされていたという舞台の天井。
もしも、外の雨どいに結び付けられていたテグスがフェイクだとするならば、本物の仕掛けのテグス通った跡がどこかにあるはず・・・。
そんなふうに考えて、天井から舞台袖、体育館内に至るまでを見て廻る。
次に新一が向かったのは、バスケ部員達のところ。
ここでいくつかの質問をし、さらに、バスケ部員が休憩時に集まる場所をふらつく。
(へぇ・・・、都合のいいもんが置いてあるじゃねーか。・・・こいつだな。)
新一は、口の端を少しだけ上げて笑う。
再び、バスケ部員に話し掛けて、新一は確信した。
(やっぱり、犯人は秋田先生・・・だな。)
けれど、彼が犯人だとすると、なにか嫌な予感がする。
先程、彼がちらりと見せた険のある眼・・・。
そこに新一が見たのは、激しい憎悪だったように思う。
絶望や狂気を思わせるような・・・暗い炎。・・・危険な眼。
新一はちらりと秋田先生に目を走らせる。
・・・と、目暮警部と話していた彼と、目が合った。
瞬間、彼は目だけで新一に笑いかけた。
新一の目が鋭くなる。
(なんだ・・・?)
掻きたてられる悪寒。
彼の目は、自分がやったと言わんばかりだった。
余裕の笑み・・・?
(ちがう、そんなものじゃない。)
彼は知っている。
新一がすでに謎を解いてしまったことも。彼を追い詰めることができるということも。
すでに、彼は視線を警部に戻し、人当たりの良い笑顔で応対している。
だが、新一の頭からは、彼の笑みが消えない。
罪を暴かれるのを楽しんでいるかのような・・・嫌悪感しか持てない笑み。
新一は、小さく息をつくと、そのまま体育館を後にした。
再び、新一が体育館に戻ると、すぐに目暮警部と高木刑事が駆け寄ってきた。
目暮警部のいた場所から、秋田先生の視線を感じる。
新一は、そちらには目を向けず、目暮警部達に向かい合った。
「・・・どうでしたか?」
そう尋ねると、目暮警部が高木刑事を促す。
「工藤君の言っていたとおり、事件があったよ。・・・当時の新聞と捜査資料のコピーだ。事件というよりも、事故だけどね。」
「・・・ありがとうございます。」
そのまま、黙って新一は資料に目を通す。
徐々に輝きを増す新一の瞳に、目暮警部達は見入っていた。
しばらくして顔を上げた新一には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「わかりましたよ、警部!」
「本当か!?」
「ええ、・・・全て。」
力強くうなずいた新一は、その視線をまっすぐと秋田先生に向ける。
「さあ、真実を解き明かしましょう。」
新一は、鋭くなった視線を秋田先生から逸らさず、まるで先程の彼の瞳が投げかけたその挑戦を受けるかのように、ゆっくり、悠然と微笑んだ。
「まず、杉山先生を殺害した仕掛けから説明しましょう。」
そう切り出した新一は、数十名の生徒や、警察関係者が見守る中、舞台に片手をついて、その上に飛び乗った。
「重りが吊るされていたのが、あそこ。」
新一は、まっすぐに舞台の天井を指す。
「そして、その重りに結び付けられていたテグスは、あちらの梁を伝って、・・・おそらく投げかけたのでしょうね・・・ギャラリーの手すりを回り、1階の窓から外にある雨どいまで。そしてそこに結び付けられていた。」
舞台の上から指だけでテグスの通ったところを示していき、最後にゆっくりと体育館のフロアー側に向き直る。
「というのは・・・フェイクです。」
新一の言葉に、館内がざわめく。
「どういうことだね、工藤くん。そこにはきちんと跡が残っていたじゃないか。」
唖然とする警部達をよそに、館内でただ一人、新一に落ち着いた視線を投げかけてくるのは、秋田先生。
それには気づかない振りをしながら、新一は警部達に説明を始める。
「跡が残っていたのは、もう一通りあるんですよ、警部。」
もう一度、天井へと目を向けた新一の視線を、館内の全ての人間がたどる。
「誰でも、あの重りがあったところから、テグスを回しやすそうなところに目を向けますよね?周りの梁などに。そして、その跡がひとつ見つかれば、それをそのままたどってしまう。そのまま答えが見つかれば、他は探そうともしないものです。」
ゆっくりと差し上げられた新一の指先は、今度は先程とは反対側へ移っていった。
「もうひとつの跡は、舞台のライトに回されていました。そして、舞台の袖に隠れるようにまっすぐと降りて、舞台からフロアーへと通じる入り口を廻って体育館の壁の足元にある窓の鉄柵へ。」
新一の指が止まった先の窓には、警官がかがんでいる。
「その窓の鉄柵に、テグスの跡がありますよね?」
話し掛けた新一に、警官は顔を上げ、警部へを視線を向ける。
「はい、確かにあります。」
その答えを受けて、新一に向き直った警部に、新一ははっきりとうなずく。
「他に跡が残っているのが、ライトと、舞台への入り口を縁取っている木の枠です。どちらも鑑識の方に確認していただきました。」
「ふむ・・・。」
警部は少し考える素振りを見せて、再び新一へと顔を上げる。
「もう一通り、テグスが通された跡があることはわかったが、どちらが本当に使われたのか、どうしてわかるんだね?」
「ああ、それなら簡単ですよ。重りについていたテグスの切り口と、雨どいに結び付けられていたテグスの切り口は一致しないはずですから。」
言いながら、新一はトンッと軽く舞台から飛び降りた。
「そして、重りに結ばれたテグスと本当に一致するテグスは、犯人によってあの窓の柵から取り外された・・・。」
ゆっくりとあげられた新一の視線は、まっすぐに秋田先生へと向かう。
「・・・ですよね?犯人の・・・秋田先生。」
なんか半端なところで終わってしまいました。・・・あはは(^^;)。
仕掛けとか、状況わかるように書けているんだろうか・・・?(不安)
2000.7.24 ポチ