出逢えたから

<file11>

翌朝、久しぶりにぐっすりと眠れた新一は、クラスメートが不審がるほどの機嫌の良さで登校した。
「よぉ!っはよ。」
「・・・え?」
いつもからかってくる連中が、新一の満面の笑顔付きの挨拶に呆然とするのもお構いなく、当人はポンッと肩をたたいて通り抜ける。
上機嫌の原因を知る蘭は、なんとなく恥ずかしくて、すぐに新一から離れると園子に駆け寄った。
・・・しかし、相手はあの園子である。
「なぁにー?旦那、機嫌いいじゃない。なんかあったの?」
挨拶した途端に、一番の核心に突っ込まれた。
「な、なにもないわよっ!」
焦って否定する蘭に、園子は全てを見たと言わんばかりににやりと笑った。
「・・・あったわけね。」
「・・・」
蘭は言葉につまる。
園子の追及から逃れるのは、新一の追及から逃れるのと同じくらい不可能に近いことだった。
そのまま、園子の視線は新一に向けられる。
「あやつも単純ねー。まー、それだけ蘭を愛しちゃってるってことか。」
「そんなんじゃないってば!」
蘭は、園子の視線に新一が気づく前に、と、必死で園子を自分の方に向かせる。
と、園子は勢いよく振り返った。目がアーチ型の橋の形になってしまいそうなほどに、ニヤけた顔で。
「で?なーにがあったのよー?蘭!」
どきっと、蘭の表情が引きつる。
「ほ、ほんとに何もないのよ!」
「またまたー。新一くんが何もなくってああなるはずないでしょ?」
ちらり、と視線を新一に流して、園子は再び蘭に詰め寄る。
「ほらほら、白状しなさいって!」
「ちょっと、園子・・・。」
詰め寄ってくる園子から蘭が一歩引いたとき、
・・・キーンコーンカーンコーン・・・
蘭にとっては救いの、園子にとっては恨めしい、チャイムが鳴り響いた。


事件はその日の放課後、まるで新一の脳細胞が復活するのを待っていたかのように、突然起こった。


放課後、
「ちょっと新一くん、どうせ蘭の部活が終わるの待つんでしょ?なら付き合いなさいよ。」
そう言う園子に引きずらた新一は、いつもの校庭ではなく、体育館の2階にある武道館の入り口で待つことになった。
蘭の練習風景が良く見える。
声も聞こえる。
・・・空手をしているときの蘭は、すごく綺麗だと思う。
新一といるときとはまた違った輝き方をしている。
新一は、『新一といるから』綺麗な蘭ももちろん好きだったが、『好きなことをしているから』『自信を持っているから』・・・そんな、自分自身で輝いている蘭もとても好きだった。
そうはいっても、普段は、こんな露骨に『待っています』という場所で待つことは、照れくさくて、理由があるときでないとできないから。
ここに連れてきてくれた園子に、新一は少しだけ感謝してもいいような気がしていた。
しばらく蘭に見惚れていると、隣で園子が蘭にひときわ大きな声援を送る。
「ほら、らーん!旦那も見てるよっ!しっかりねー!!」
「お、おいっ、何言って・・」
(・・・前言撤回。)
だれがこいつに感謝なんかするもんか、と新一は園子をにらみつける。
と、園子の声で新一に気づいた蘭が、入り口の方へ走ってきた。
「新一!どうしたの?」
息をはずませた蘭が、うれしそうに新一を見上げる。
(・・・こいつ、他のヤツに見せるのもったいねーよな・・・。)
新一は、妙にどきどきしている内心とは裏腹に、冷めた口調を装って答える。
「別に。園子に無理やり連れてこられて・・・」
「なによ、素直じゃないわねー。ほんとは来たかったんでしょー?さっきまでこ〜んな顔して蘭に見惚れてたくせに!」
園子はそう言いながら、『ぽ〜っ』という効果音が聞こえそうな表情を真似してみせる。
「なっ、そんな顔してねーよ!」
表情はともかく、見惚れていたことを見抜かれて、新一はあせって答える。
それを見て、くすっと笑った蘭に、新一はまたどきっとする。
「待っててくれるの?」
「ん?・・・まーついでだし。」
「よっく言うわよー。最初から待つつもりだったんでしょ?」
すかさず突っ込みを入れる園子に、新一が言葉につまる。
「・・・とにかく待ってっから、練習もどれよ。」
「はぁーい。」
クスクスと笑いながら去っていく蘭を見送って、新一が再び園子をにらむと、園子はそんな視線はものともせずに、にやりと笑った。
「新一くんって、ほんとに蘭にベタ惚れよねー。」
「な、なに言ってんだよ?」
わずかに新一の頬が赤らむ。
その新一の表情を面白そうに眺めて、園子が追い討ちをかける。
「ほらほらっ、蘭のことになるとすーぐ顔に出るし!新一くんの今朝の上機嫌の原因も蘭でしょ?」
園子がそう言った瞬間、今度ははっきりと新一の頬が赤くなった。
今朝は自分でも、相当浮かれている自覚があったのだ。
まさか人からそんなツッコミをうけるとは思っていなかったが。
「べっつに関係ねーよっ!」
ふんっとそっぽを向いた新一に、園子は心底楽しいと言わんばかりの表情で続ける。
「そんな顔してかっこつけても無駄よ、無駄!高校生名探偵も蘭が絡むと形無しよねーっ。」
「るっせーな・・」
と、その瞬間だった。

ガタガターンッ!という大きな音と共に、
「きゃあああああっ!」
・・・数名の悲鳴が聞こえた。

反射的に悲鳴がした方向に顔を向ける。
と、体育館の舞台の上に倒れた男性と、そこから広がっていく黒っぽい染みが、新一の視界に入った。
状況を把握すると同時に、新一はその場から大声で叫んだ。
「全員、今いるところから動くな!体育館から出ないように!!」
「新一、何?」
いつのまにか後ろに来ていた蘭を振り返ることもせず、
「蘭、警察と救急車に電話してくれ!」
それだけ言って、2階のギャラリーを囲む柵を越えると、新一はそこから一気に1階まで飛び降りた。



私はどうも、ストーリー展開とは無関係(?)なシーンを入れすぎているような・・・。
好きでつい書いてしまうんですが、たぶんこのせいで話が無駄に長くなっていると思われます。
・・・すみません。m(_ _)m
しかも、無謀にも事件・・・。この事件の構成については、絶対!突っ込まないでください。
お願いしますっ。適当ですから!
2000.7.21 ポチ

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