好きと気づいたら
<file03>
「なー青子ぉ?」
快斗が口を開いたのは、青子が作ってくれた夕食を食べ終えてからだった。
青子を送っていくまで、まだ少しだけ時間がある、とふたりでリビングでテレビを見ていたとき。
快斗は床に転がり、それまでと同じように視線で画面を追いかけながら、快斗は青子に尋ねた。
快斗がパリパリとポテトチップを食べる音がテレビの音と混じっている。
「オメー、なんかあったのか?」
「え?」
とりあえずは、と、ストレートに尋ねた快斗に、ソファに座っていた青子は、きょとんとした瞳を快斗へ向けた。
問われている質問に関して、何も心当たりがないといった様子で。
青子は快斗を見て、パチパチと瞬きをしている。
何を聞かれているのかさえもわからないようである。
「・・・・・・なんか、元気ねーじゃん。」
少し考えてから、快斗が重ねて言うと、青子は「あ」というように口を開けた。
思い当たることがあったのだ、とそれでわかる。
(やっぱ、なんかあったんだな。)
快斗は、のそ、と身を起こすと、床に座って新しいポテトチップを摘みながら青子を窺った。
「どーしたんだ?」
そう、尋ねる。
大抵の場合、それで青子が「うん、あのね・・・」と話し出してくれるのだ。
だが、今回は違った。
「・・・なんでもないよ。」
そう言って、取り繕うように青子は笑ったのである。
快斗は、そ知らぬ振りで、唇でパリパリポテトチップを割って食べながら、さりげなく青子の様子を探る。
(・・・重症だな、こりゃ。)
そう結論付けて。
「ふーん。そうなのか?」
口では『まぁいいんだけどよ』とでも言いそうな、あくまで話題のひとつでしかなかったというような答えを返した。
「・・・うん。」
それに答えた青子が寂しそうで、快斗は無言のまま膝立ちに起きる。
片手でポテトチップの袋を摘むと、それをソファの前のテーブルに置いて、自分はソファ・・・青子の横へと移動した。
どさり、とソファが音を立てて沈む。
「な、なによ?青子、なんでもないって・・・」
慌てたように身を引く青子に、快斗は特に何も言わなかった。
(うそつけ。)
と、声に出さずに呟く。
話したいって顔に書いてあるじゃねぇか、と快斗は思う。
「・・・なんでもないならいーけどよ。」
言いながら、どうすれば青子が話しだせるだろうか、と考える。
それから、もしかしたら、自分絡みなんじゃないか、とも思った。
なぜなら、快斗が問題に絡んでいないなら、青子は快斗に隠したりはしないだろうから。
ただ、仮に事が快斗絡みだったとしても、快斗には心当たりがなかった。
「・・・・・・。」
言われた青子は、俯いている。
テレビは、もう見ていないみたいだった。
はぁ、と快斗は軽く溜息をつく。
びくり、と青子の肩が震えて、快斗は思わず苦笑した。
「・・・ほら、青子、見てみ。」
俯いたその視線の先に、快斗が拳を差し出す。
無言のまま、指で「ワン、ツー、スリー」とカウントをとると、ぽんっと一輪の花を差し出した。
青子が重症なのはわかっているから、それで笑顔が戻るほど簡単なことではないと知った上で。
「・・・ありがと。」
案の定、青子はいつものようにパァッと笑顔になることはなく、ぽつりと呟くだけで、その花を手に取る。
「・・・きれいだろ、その色?」
快斗は、さして気にしたふうもなく、そんなことを告げて、ソファの背もたれに背を預けた。
青子の視線が、じっとその花を見つめる。
ピンクのカーネーション。
そう言ってしまえばひと言で表現できる花だけれど、それはとても淡いピンクで、優しい色合いを持っていた。
心がふわりと緩むような、そんな色。
「・・・・・・うん、ほんとだね・・・。」
青子が、答える。
ひどく静かに花を見つめていた青子の表情が、不意にくしゃりと歪んだ。
「・・・・・・。」
無言で見つめる快斗の視線の先で、泣き出すかと思われた青子は、それを堪えるように、ぎゅっと唇を噛み締めた。
続き〜♪
なんとなくだけど、快斗って笑わせてあげることはもちろん、
つらいときにぽろんと泣かせてあげることも上手な気がするのであった。
(錯覚?実際は、青子が悩んでるわけがわかんなくてハテナ飛ばすだけかも(笑))
2001.11.8 ポチ