好きと気づいたら


<file02>



「・・・やだな、そんなの・・・。」


ふいに視界が翳った。

「・・・なにが嫌なんだ?」

顔を上げると、今の今まで考えていた快斗が、鞄を脇にはさみ、両手をポケットに突っ込んで立っている。

「・・・快斗。」

青子は、どこかぼんやりとした視線で快斗を見上げた。

「よ♪遅くなって悪かったな。」

快斗は、そう言って笑う。
そして、

「けど青子、オメーなんでこんなとこ座ってんだ?寒いじゃん。」

続けると、少し眉を寄せた。

「・・・快斗・・・。」

青子が、もう快斗の名を口にする。
呼びかけというよりも、呟きであるそれに、快斗はひょいっと肩を竦めてみせると、どさりと青子の隣に腰を下ろした。

「・・・つめてーなぁ、ここ。」

そう言って、ベンチを見たりして。

「青子、今日うち寄ってくか?」

そんな風に誘う。
いつもと変わらない笑顔で。
青子は、その笑顔になぜか少しだけ哀しくなりながら、けれども隣に感じた暖かさにほっとして、ようやく表情を取り戻した。

「うん、じゃあ寄ってく。あ、でもそうしたら夕飯の買い物、今して帰らなくちゃ。」

いつもと同じ会話だから、迷うことなく返す言葉が浮かぶ。
そんなことに、なんとなく安堵した。

「じゃあさ、おれにもなんか作って。」

そう言って、快斗は青子を覗き込む。
慣れきったはずの近いその距離に、また、青子の心臓が跳ねた。

「あー、快斗、さてはそれが狙いでしょー?」

ドキドキし始める心臓を隠して青子が言うと、快斗は、にっと白い歯が覗かせた。

「だって青子のメシうめーもん。警部まだ帰んないだろ?いいじゃんか。送るからさ。」

今日母さんいないんだよ、と言う快斗に、青子は呆れたように笑って。

「しょうがないなー。」
なんて、答えてみせる。
とても、うれしかった。

「サンキュ!」

笑う快斗に、青子はつられて笑顔になりながら、よいしょ、と立ち上がった。

「じゃあ行こうよ。快斗、荷物持ちしてくれるんでしょ?」

「おー。まっかせなさい。」

歩き出す青子に、快斗も立ち上がり、隣に並んでくる。
そんなことで、沈んでいた気分が、いつのまにか回復していく。
青子の歩く足取りは、弾むような軽さを取り戻す。
そんな青子を、隣を歩く快斗がちらりと見やって、ふっと口元に笑みを浮べた。





買い物をして、スーパーを出ると、空が少しオレンジがかっていて。

「おー、いい時間だなー。」

なんて、快斗が笑う。
青子は、快斗が3つとも持ってくれているスーパーの袋をひとつ受け取って尋ねた。

「なにがいい時間なのよー。」

「ん?それはー、これから家帰って、青子に夕飯作ってもらったら、食うのが丁度いい時間♪」

快斗は、うれしそうに歩き出しながら答える。

「・・・・・・。」

青子は、じとりと隣の快斗に半目を向けた。

「あんだよ?いいだろー。育ち盛りの高校生が夕飯楽しみにして何が悪いっ!」

なにやら力説している快斗に、青子は、まったくもー、と呟く。
呆れた顔をしながらも、手に持った袋は前後にぶらぶらと揺れていて。
快斗について歩き出すと、快斗は一瞬だけ立ち止まって青子が隣に並ぶのを待った。

(快斗って、前からこうだったかなぁ・・・?)

青子は快斗に追いつきながら考える。
思い返してみても、気にしていなかったので記憶がはっきりとしなかった。

並んで歩いていく大通りは、夕飯の買い物に来た主婦や仕事帰りの人々で混み合っている。
だが、青子は歩きやすい。
なぜか、なんて考えるまでもなかった。

(快斗は、・・・みんなに優しいもんね。)

視線を伏せて、青子は小さな笑みを浮べた。


みんなに、優しい。


それはいいことのはずなのに、どうしてこんなに心がもやもやするのだろう、と・・・・・・考えると青子はとても哀しくて。
ひとつ、溜息を吐いた。




そんな青子を、快斗は隣を歩きながら、さりげなく、けれどもじっと見ていた。

(青子のヤツ、変だよな・・・。)

首を傾げる。
教室を出るまでは元気だったのに、先程河原のベンチで見つけたときから、ずっと元気がない。
快斗がいない間のことだったので、原因もわからなくて。

(あーあ、ずっと一緒ってわけにはいかねーもんなぁ。)

快斗は、心で溜息を吐いた。
とにかく、家に帰ったら聞いてみようと思う。
人にぶつかったりしないように、青子を誘導しながら歩いて大通りを抜けると、快斗は少し歩く速さを速めた。




もう11月・・・。夏が過ぎてから季節の巡りがやけに早い。早すぎる。
ひとつの話を書き終える前に、季節が移っちゃうから気分が出ない(←そら書くのが遅いんだって!/爆笑)。
2001.11.4 ポチ

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