好きと気づいたら
<file04>
(ったく。我慢なんかすんなよなー。)
泣きそうな青子に追い討ちをかけるようにして、快斗がくしゃりとその頭に手をのせる。
少しおどけた仕草で、快斗が青子を覗き込んだ。
「青子。」
名前を呼ぶ声が優しい。
青子は快斗から視線をずらして、さらに俯いた。
と、トントンと軽く手の甲を叩かれた。
青子が花を持っているほうの手。
誘われるように見れば、快斗がまっすぐに伸ばした人差し指で、そこに触れている。
トン、と一度、その指先が青子の花を持つ手をノックすると、パッとまるで今咲いたかのように、花が一輪増えた。
「・・・・・・」
無言の青子の視線の先で、また快斗の指先が動き、花が増える。
3輪、4輪と一定のリズムでゆっくりと増えていく優しいピンクのカーネーション。
5輪、6輪と増えると、手元だけを見ていた快斗の視線が、ちらりと青子に向けられた。
青子の手の甲を叩くリズムは、変わらない。
なだめるように、まるで眠ろうとする子をあやすように、トン・・・、トン・・・、と軽い振動を青子に送る。
「・・・持てるうちに止めろよ?」
花が増えていく。
10本を越えると、意識しなければ持てなくなった。
零れそうな涙を堪えている青子は、力を入れすぎて花を折ってしまいそうで、微かに指先を震わせる。
「・・・・・・青子。」
快斗が呼ぶ間に、また1輪増える。
優しい指先が、次に青子の手に触れそうになったとき、
「・・・もう、持てないよ、快斗・・・。」
黙り込んでいた青子が、ようやく口を開いた。
快斗の指先が止まる。
「・・・了解。」
そう言った快斗は、くしゃりともう一度青子の髪を掻き混ぜると、青子が花を持つ手に一枚の白いハンカチをかぶせた。
カウントすることなく、すぐにするりとそのハンカチを外す。
「これなら持てるだろ?」
それまでバラバラだった11輪のカーネーションは、かわいらしい、小さなブーケに纏められていた。
白い小さなかすみ草がほんの少し加わって、それはさらに柔らかい印象を与える。
じっと、それを見つめていた青子が、
「・・・快斗・・・。」
ポツリと快斗を呼んだ。
いつのまにか、青子の隣のソファから床に降り、青子の膝の横に移動して、ななめ前方から膝立ちで青子を見つめていた快斗が、青子に呼ばれて、にっと口元に笑みを作る。
やんちゃな雰囲気の笑みなのに、青子にはとても優しく見えて。
無表情に近かった青子の表情が、泣き笑いのようなそれに変わった。
それを見て、快斗の表情も緩む。
いたずらな雰囲気が消えて、変わりに包み込むような優しい眼差しを青子へと向けた。
(快斗・・・)
青子が、快斗を見て、また俯く。
快斗の青子を見つめる目が、青子の胸に、ぎゅっと絞るような痛みを与えた。
「・・・・・・快斗、ずるいよ・・・。」
ぽつりと青子が呟く。
快斗が、きょとんと青子を見上げた。
「へ?」
それにちらりと視線を上げ、青子は少しだけ笑う。
「青子、絶対快斗に隠しごとできないんだもん。」
パチパチと青子を見て瞬きをした快斗が、ふっと口元に笑みを浮べた。
「・・・隠したいことだったのか?」
尋ねられて、青子は少し考えたあとで首を振る。
「だろ?」
また、にっと快斗が笑った。
その笑い方は、大抵の場合、快斗が機嫌のいいときにするものだけれど、たまにそれ以外のときもあって。
そんなとき、少し得意げな快斗の笑みは、なんとなく、青子の気分を浮上させてくれるものだった。
かなわないな、と、青子は思う。
話したいと・・・快斗に話を聞いてほしい、と、いつのまにか思わされてしまうのが悔しい。
「・・・ずるいよ。」
もう一度恨みがましく呟くと、快斗はクスリと笑みを零した。
今度の笑顔は、ふっと青子をも笑顔に変えてしまうような、そんな柔らかい表情。
「まーまー。いいじゃねーか。」
快斗はそう言うと、青子に向き合っていた体勢を動かした。
絨毯の上で青子に背を向け、ソファにもたれるようにして青子の横に座る。
テーブルに置いたまま食べるのを中断していたポテトチップスの袋を、無造作に手に取った。
「それで?・・・どうしたんだ?」
パリパリ、と再びそんな音が聞こえ出す。
青子は、僅かに苦笑しながら、
「うん・・・」
と、考えるように、呟いた。
やばい、タイトルと内容が合わなくなるかも〜(汗)。
このあいだ読み返していて誤字を見つけたはずなんですが、どこだか忘れてしまいました。
見つけた方、教えてくださるとうれしいです(^^;)。
2001.10.11 ポチ