好きと気づいたら


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夏が終わったそのときから、少しずつ、街は秋の気配に覆われ始める。
そうして暦が移り、人々の服装がすっかり長袖へと変わったばかりの季節。
青子も、この3年間ですっかり着慣れた冬服のセーラー服を着て、高校からの帰り道を歩いていた。

ひとりきりで、重く溜息を吐く。
いつもは快斗と一緒に歩く河原の土手。
河から吹き上がってくる風はひんやりとしていて、まだそこまで寒い季節ではないのに、青子はぶるっと小さく震えた。

寒いのは風のせいだけではなく、・・・たぶん、隣に快斗がいないから。

そう考えて、青子はふと気が付き、顔を上げた。

(そっか、いつもは快斗がいるから・・・・・・。)

左側を見ると、少し風があるのか、普段よりも川面が波だって見える。

(・・・気づかなかったな・・・。)

いつも、快斗が河側を歩いてくれていたこと。
河の方向から吹いてくる風は冷たいから・・・?

―――いつだって青子をからかいながら、けれども青子が気づかないようなところで、妙に優しい幼馴染。
青子は、何も知らないうちに、あたりまえのように快斗の優しさに守られていて。

(・・・・・・バ快斗・・・。)

青子は、もう一度溜息を吐くと、視線を川面から自分の歩く砂利道の足元へと戻した。
寒いのは、風からかばってくれる人がいないからだけではないのだと・・・青子は気づかない。

―――優しい、幼馴染。

青子は、自分でも気づかないまま、とぼとぼといった表現が一番似合うような、元気のない足取りになっていた。

快斗は、優しい。
贔屓目じゃなく、ルックスだっていい方なんだと青子は思う。

(あんまり、そんなこと考えたことなかったのにな・・・。)

1年前は、高校でだっていたずらばかりしていて。
やんちゃなイメージの方が強かったのに。
いつの間に、あんな風になっていたのだろうか。

(でも、あんまり変わってないような気もするけど・・・。)

青子は、道端の石を蹴っ飛ばす。
目の前には、青子の影が長く伸びていて。
青子はまた、溜息を吐いた。

そう、変わっていないところは全然変わっていない。
相変わらずスケベだし。いたずらは今だって日常茶飯事だ。
それなのに、時折、ふと覗かせる表情がやけに大人びて見えて、ドキンと心臓が跳ねてしまう。
快斗がそんな表情を見せるとき、青子の周りが、まるで羽根のように・・・優しく抱き締められているような、そんな空気に変わる気がするのだ。
快斗は何の気負いもなく青子の隣にいるのに、青子の心臓はドキドキと暴れだしてしまって。
他のみんなもそうなのだろうか、と、思ったりする。

3年生になって、女の子からの呼び出しが格段に増えた快斗。
今までも人気があったのは知っている。
でもそれは、『快斗くん快斗くん!』と、そう言ってみんなが集まってくる、そんな人気。
快斗を好きな人は、結構気さくに近くまで来て騒いでいた。
―――わざわざ呼び出す女の子なんて、いなかったのに。

(・・・・・・快斗、まだかな・・・。)


今日も一緒に帰ろうとした、その帰り際に快斗は女の子に呼び出された。
『青子、先歩いててくれよ。追いつくからさ。』
そう言って、女の子と一緒に教室を出て行ったのを、青子はなんでもない顔で、『うん、わかったー。』と見送った。


土手の上を歩く青子の背中から差してくる日差しは、まだしばらくは沈みそうではないけれど。
心細さを感じて、青子は立ち止まり、後ろを振り向いた。

・・・快斗は、まだ来ない。

ふぅ、ともう一度溜息を吐く。
歩けば歩いただけ、快斗が遠くなってしまいそうな気がして、青子は周囲を見渡すと、土手の河側、一段低いところに作られた遊歩道にベンチを見つけ、そこに降りていった。
木でできたそれは、少しだけ冷たい。

(・・・ここからなら、土手の上も見えるし・・・。)

快斗が通ればわかるだろう。
そう思って、青子は河に背を向ける形でベンチに座る。
髪が、後ろから風に煽られた。

「快斗、どうしたかなぁ・・・。」

女の子からの呼び出し。
さすがに、青子にだってその意味はわかる。
呼び出されると、快斗はいつもきちんとそれに付き合った。
そんなときの快斗は、やけに遠く見えて・・・。

「・・・いつかは、快斗に彼女ができるのかな・・・?」

考えて、哀しくなる。

(寂しいな・・・そんなの・・・。)

幼馴染じゃ、ずっと一緒にはいられないのだろうか。
いつか・・・離れていってしまうのだろうか。

青子は、いつのまにか視線を土手の上の道から、自分の膝元に下げてしまっていて。

「・・・やだな、そんなの・・・。」

ポツリと呟いた。



またしても、たいして長くないのに連載・・・。しかもまた書き終えてないし。
のんびり、心豊かにお付き合いいただいけるとうれしいです(^^;)。
お約束ネタって、実はとっても好きだったりします。
2001.10.31 ポチ

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