君に会いに行こう




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さて、ロイが着替えてグラマンと共に階下に下りると、ロイの腹心の部下達は、揃いも揃って不機嫌全開で待っていた。車寄せに続く階段をゆっくりと下りていくロイを、上司を見るとはとても思えないような、苛立ちを含んだ目で睨み上げてくる。フュリーなどは涙目になっていて、さすがにロイは申し訳ないという気持ちになった。からかって楽しいのはブレダとハボックまでかもしれない。
「待たせたかな。」
「いいえー。」
間延びした返事はハボックだ。茫洋とした返答とは裏腹に、ロイを見る顔には先程のブレダと同様に『裏切り者』と大きく書いてある。
ロイは小さく肩を竦めた。さすがに4人分の視線が痛い。
隣を歩いてきたグラマンは、おかしそうにそれとわからぬように肩を揺らしている。
「将軍…。」
軽く睨んだロイに、グラマンはくしゃりと細めた目で答えた。
「いやはや、愛されてるねぇ、君たち。」
――君たち。
ロイは、ふっと微笑んだ。
「幸せですね、私も、――彼女も。」
「うん。…行こうか。」
促したグラマンが、一台の車の後部座席に乗り込む。フュリーとブレダがグラマンの車に乗るようだった。
運転席の横に立ったハボックが、ロイにも後部座席を示す。開かれているドアにロイが乗り込むと、2台の車は静かに車寄せから走り出した。
「……ほんとなんすか。」
公道に出るなり尋ねてきたハボックに、ロイは苦笑する。
「何が。」
「あんたの婚約者ですよ! ずっといたって、ブレダのヤツに聞いたんですけど。」
「ああ。」
ロイは、わざとらしく鷹揚に頷いた。ハボックがいらだつのがわかっていてだ。
案の定、ハボックはバックミラー越しにきつい眼差しをロイへと投げてきた。ロイは同じくミラー越しに、その眼差しを正面から受け止める。
「本当だよ。嘘を言ってどうする。」
「隠してたんですか。」
その質問には、ロイは片眉を上げただけで答えた。
「当然だろう。公になんかできたと思うか。」
あの状況で――と、暗にここに来るまでの道程を示せば、ハボックは唇の端で加えた煙草をきつく潰すようにして黙り込んだ。
ロイも、質問が止んだので黙って、目を閉じた。
と、今度は助手席に座ったファルマンが口を開く。
「10年来というと、大佐が東部に異動する前ですか?」
ロイは、目を開ける。軽く視線を背後に流しているファルマンと、目が合った。
「そう…いや、東部に来た頃、かな。」
「将軍に紹介されたのですか。」
本当に質問攻めだ、と、ロイは笑った。
「違うよ。」
「ではその前からのお付き合いですか。」
見合いではなく? と尋ねられて、ロイは段々と零れる笑みを抑えられなくなった。
この調子で質問に答えていったならば、この二人はどこで気づくだろうか。
「そうだな。かなり古い付き合いなことは確かだ。」
「そんなにっすか?」
口を挟んだのはハボックだ。相変わらず不機嫌だが、興味はあるらしい。
「付き合いだけなら20年は固いぞ。」
「嘘でしょう!?」
叫んだハボックは、つくづく先程のブレダにそっくりだと、ロイは思った。
「おいハボック、前を見て運転しろよ。」
「見てます。」
ふてぶてしく答える男にロイは苦笑する。上官がロイでなかったら、これだけで不興を買いそうだ。ロイは基本的に口の減らない点を気に入っているので構わないが。
「おまえといいブレダといい、失礼極まりないな。なんで嘘だというんだ?」
「そりゃアンタが一人の女性とずっと続いてたなんて聞いたら驚くに決まってるじゃないですか!」
「なぜ。」
短く問い返したロイに、ハボックは説明する必要なんかないといわんばかりの表情になった。
「アンタ、どんだけ遊んでたと思ってんです? そんなんで本命が居たなんて晴天の霹靂です。」
「ほぉ、おまえにしては難しい言葉を使うな。」
「…アンタね……。」
がっくりと肩を落としたハボックに、ロイは小さく笑って窓の外へ目をやった。グラマンの自宅に訪れるのも久しぶりだ。
「言っておくがな、これでも私は結構一途だと思うぞ。」
「…どうやってそれを信じろと?」
ぎろりと睨んでくるハボックに、ロイは苦笑した。
「まぁなんとでも言えばいいさ。」
ロイの言葉に、ハボックは煮え切らないものを飲み下すような顔をして、むすりと口をつぐんだ。
セントラルの中央部よりもやや郊外に位置する、いわゆる高級住宅地にグラマンの家はある。ロイも数えるほどしか来ていない。まして、彼女が居るその家に訪れるのは初めてだった。
「ハボック、次の路地を右へ。」
「アイサー。」
指示を出して目を閉じる。
久しぶりに会えることが、単純に嬉しくて心が騒ぐ。ロイはそんな自分に、幾つの男だと内心で笑いながらも、まるで10年前に戻ったかのような気持ちが愛しく思えた。







ひっぱてるわけではなく(そんな話じゃないし/笑)、
まだここまでしか書いてないのです。すみませ…。

2007.10.6 ふみづき ゆう


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