出逢えたから
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意思を持つまえに、そばにいることが当たり前になっていた、その運命に感謝しているから。
あきらめたりなんかしない。
側にいても、離れていても、ずっと信じていける。
待つことも、追いかけることも、迷わずできる。
そんなあなたに出逢えたから・・・。
どんな形でもいい、一緒に生きていこう。
コナンくんが両親のもとへ帰ると言って家からいなくなって、1ヶ月。
家事の量が減ったことにもやっと慣れた、落ち葉も増えた季節。
いつものように学校へ行ったら、当たり前みたいに新一が来ていて、
「よぉ、蘭。久しぶり。」
何ヶ月もいなかったことなんかウソみたいに、笑っていた。
そののーてんきな笑顔が無償に頭にきて、手に持っていた学生鞄を思いっきり投げつけると、一言もいわずにきびすを返した。
慌てて追いかけてきた新一に連れられて上った屋上で、全ての真相を聞かされて、泣きじゃくりながら新一を責めた。
手加減もなく繰り出した空手の技を、よけられるはずなのに身動きもせずに受けた新一が、屋上を囲む金網まで飛ばされて。
ビックリして駆け寄ったら、金網越しに座り込んだままで、「ごめん」と、微笑まれた。
「ずっと、好きだったよ・・・」、と。
この人に出逢えて良かった・・・と、心から思った。
新一が帰ってきてから3ヶ月ほど経った2月の終わり。
「新一、進路決めた?」
いつもの帰り道、隣を歩く蘭が新一を覗き込む。
「う、ん〜・・・。まだ。」
新一は曖昧な答えを返す。
「えー、そろそろ決めないとまずいんじゃないの?選択科目とか絞れないでしょ?」
「わーってるけどよー・・・。」
歯切れの悪い新一の答えに、蘭が訝しげな表情に変わる。
それにすばやく気づいた新一が、即座に話を変えた。
「それよりさ、今度の日曜、ひまだったらどっか行かねぇ?」
「え?」
「用あるのか?」
「ないけど。」
「じゃー、オーケイか?」
「・・・うん。」
「どこがいい?」
聞かれた蘭は少しだけ考えて、
「トロピカルランド!」
と、満面の笑顔で答えた。
(こいつ、こんなにきれいだったっけ?)
新一は、一瞬考えたことに照れて、わざと呆れた声と表情を取り繕う。
「おまえ、そればっかじゃねーか・・・。」
「いいじゃない!好きなんだから!」
(それに、あそこには、新一との思い出がたくさんあるんだもん。)
蘭はちょっとふくれてみせる。
新一は、そんな顔もかわいいと思ってしまう。
「いいけど・・・。」
「でも新一、もう受験生になるって自覚あるの?」
「まー一応。」
何言うんだ、という表情の新一に、蘭はお説教を始める。
「だいたい新一、休学してて他の人より勉強遅れてるんじゃない?」
このまま畳み掛けられてはたまらない、と、新一は早々に蘭に口を挟む。
「ばーろー、いつの話だよ、それ。こないだの期末試験では、ちゃーんと首位奪回してるかんな。」
先日の試験の順位は、まだ発表されていない。
自信たっぷりに胸を張る新一に、蘭は疑わしそうな目を向ける。
・・・ほんとは疑ってなんていないけれど。
「またー。ほんと?」
「ほーんとだって!」
「じゃー違ってたら、遊園地新一のおごりね!」
「おー。受けてたってやるぜ?・・・で、首位だったら蘭がおごってくれんのか?」
いたずらっぽく蘭を覗き込んだ新一に、ほっほっほっと高笑いを返して。
「いやよ!」
「なんだよ、それじゃー不公平じゃねえか?」
ばきっ!!
蘭のコブシに街灯の柱が形を変えた。
「なんか言った?」
「・・・いいえ、何にも・・・。」
(こえ〜)
思わず足を止めた新一を無視して蘭は歩いていく。
「まったく。授業中居眠りばっかりして。いい点取れたのは誰のノートのおかげよ?」
「へいへい。」
蘭を追って再び歩き出しながら、新一は、この日常をもう壊したくない・・・と、複雑な表情で思っていた。
続きます。大丈夫かなぁ?・・・不安。
2000.6.19 ポチ