好きと気づいたら
<file06>
快斗は、青子に背を向けたまま、気配で青子の様子を感じながら沈黙していた。
緊張と・・・不安と期待が、快斗のポーカーフェイスを崩しそうになる。
快斗は、少し鼓動の早くなった心臓をなだめながら、目の前にあるテーブルの淵を、意味もなくじっと見つめる。
あとどのくらい一緒にいられるのかな、と、青子は言った。
それは、快斗がずっと待っていたことだったのである。
快斗は、青子が好きだった。
もちろん、特別な女の子として。
でも、青子にとって、快斗の存在はあまりにもあたりまえすぎて、青子はなかなかそれを改めて認識しようとしてくれなかった。
どういう関係なのか、と尋ねられても、それには『幼馴染』という答えが簡単に用意されていたから、青子が快斗という存在を意識するキッカケにはならなくて。
だから、快斗はひたすら待つことになった。
自信と不安の間で揺れ、焦ったりうぬぼれたりしながら、青子自身が自然と快斗の存在を考えてくれるようになるまで、ずっと、何年も。
快斗がそう仕向けることはできたのかもしれないけれど、そうしたら後々まで不安が残りそうだったら、快斗は自分が焦れるだろうことも承知で、待つことの方を選んだのである。
今日青子が口にした言葉は、青子がようやく快斗というあたりまえだった存在を意識したということで、そして一緒にいることが特別なのかもしれないと気づき始めた証拠だった。
黙り込んだ青子の気配を背後に、快斗は自分の心を整理する。
やっとここまで来られたのだから、ここで焦りたくはなかった。
青子の気持ちが育つのを―――青子が、自分の気持ちを見つめて答えを出していくことを、見守りたいと思いこそすれ、決して邪魔したくはなかったから。
快斗は冷静であろうと自分に言い聞かせる。
追い詰めたくなんかない。
青子は、まだ恋を自覚してはいない。
快斗から見たら、多少違っていたらどうしようという不安はあれど、まぁ自分を想ってくれているのではないかと感じられるのだが。
青子に気づかれないように、背筋の動きにも気をつけながら、快斗はそっと長く息を吐く。
そうすることで、昂ぶっていた自分の心をようやく落ち着かせた。
音も立てずに腕を動かし、先ほどから勝手に音を撒き散らしていたテレビの電源を落とす。
快斗がゆっくりと振り返る。
俯いた青子がその目に移った。
その青子が、快斗の視線の先で、快斗の動いた空気を感じて顔を上げる。
テレビが消えていることにも気づいていない様子に、快斗は僅かに苦笑した。
青子の斜め前、ソファの前で膝立ちになった快斗を、青子は、まるで何かを問い掛けるように見つめる。
戸惑いを含んで送られるその視線を受けて、快斗が苦笑に柔らかな笑みを混ぜると、青子は更に戸惑いを深くしたらしく、快斗を見つめるその視線は逸らそうとするような揺れを見せ、その頬はほんのりと赤く染まった。
今まで見たことがなかった青子のその表情に、快斗の鼓動が僅かに速くなった。
青子は、快斗の表情を見て、完全に言葉をなくした。
ただでさえ、何をどうすればいいのかわからずに自分の心をもてあましていたのに、そんな困惑さえもすっかり固まり、思考が、ただただ真っ白になってしまったのである。
青子が最近戸惑いを感じていた快斗のあの表情が、いつになく顕著な形でそこにあった。
どこまでも優しくすぎる瞳の色が、青子をどうしようもなく落ち着かない気持ちにさせる。
その視線の先にいることが居た堪れなくて、なのに逃れられない。
まるで底の見えない深淵を覗き込んで、全身が竦んでしまったようだった。
もちろん恐怖なんかない。
けれども安堵なのか不安なのかわからないその感覚は、真綿で心臓を捕らえられるようなもので。
耐え切れず、青子の心の中で何かが切れてしまいそうになったとき、ようやく快斗が、恐らくは無意識だろうその瞳の呪縛から、青子を解き放った。
「青子?」
そう言って、青子の膝の横のソファに上体を乗り出すようにして、快斗は青子を覗き込んだ。
その表情は、まだ僅かに名残はあるものの、ほぼいつも通りの快斗で、青子は詰めていた息をほっと吐く。
「なんかオメー、びびってねぇ?」
どこか不思議そうに、ほんの少しだけからかいを含んでそう言った快斗に、憎まれ口を返す気力は、青子には残っていなかった。
どくどくと打ち続けている心臓の音が、耳のすぐ傍で聞こえてくる。
そんな青子に気づいているのかいないのか、快斗はクスリと笑って体を引いた。
青子の膝元から少しだけ距離を作ると、その分できた空間で快斗は体の向きを変える。
ソファに肘を置いて横向きに寄りかかると、青子を見て笑った。
「青子は、おれと一緒にいられなくなるの、嫌なわけ?」
軽い口調で話し掛ける。
問われた青子は、快斗が雰囲気を変えたことと、やっと答えられる質問が来たことに、ほっとして口を開いた。
「うん。」
それは、青子が自分の気持ちの中で自覚できる数少ないことのひとつだったので、青子は素直に頷く。
それから、ふと不安になった。
(快斗は、嫌じゃないの?)
視線を向けると、口に出さなくても表情からそれが伝わったらしい。
快斗が僅かに苦笑する。
「おれも、嫌だけど?」
そう言うと、ふっと笑った。
「じゃあさ、今おれたちが一緒にいるのって、なんでだと思う?」
再び、青子に尋ねる。
柔らかい口調に、青子は少し余裕を取り戻して、首を傾げた。
「・・・幼馴染だから?」
「違うんじゃねーの。」
快斗が、即答で否定する。
「幼馴染ってだけで、ずっと一緒にいるわけじゃねーだろ。小さい頃はよく遊んだけど今は全然ってヤツなんかいくらでもいるぜ?」
そう言う快斗に、青子は戸惑うような視線を向けた。
幼馴染だけでは、関係を保つ糸にはなりえないのだと快斗は言っているのだ。
それならば、どうしたらいいのだろう・・・と、青子が不安そうに快斗を見る。
(どうしたら、青子は快斗とずっと一緒にいられるの・・・?)
当初の漠然と思っていた話とは全然違う方向へ・・・(^^;)。
そして文体がとっても不安定・・・。うわぁぁぁんっ(><)。
とりあえず、次回で終わりです。わけわかんない状態ですが・・・・・・(逃げたい!)。
2001.11.20 ポチ