ノラ猫探し


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殺風景な部屋だった。
まぁ当然といえば当然だ。士官学校の候補生風情に豪奢な部屋を与えてどうする。
もっとも、だからといって軍のお偉いさんに豪邸が必要な理由もないとは思うが…それはおいておくとして。
ヒューズは、たった今戻ったばかりの部屋の明かりを灯し、ぐるりと部屋を見渡した。
ドアを入るとすぐ、視界を塞ぐようにして壁際に二段ベッドがある。
反対側の壁際に勉強机が二つ。間を身の丈程の本棚で遮られて置かれていた。
その奥の部屋の角、日陰になる場所に冷蔵庫がひとつ。
ここはそれだけの部屋だ。
しかもこの部屋の住人は、ここに住んでまだ3日目。
余計な私物もなく、殺風景なものだった。
ヒューズは、てくてくと置くまで歩いて冷蔵庫を開ける。
そこから適当に買い置いてあるソーダの瓶を取り出して口を開けた。
一気に仰ぎ飲んで、ひとつ息を吐く。
「…確か、二人部屋だったよな、この部屋?」
何度目かわからない台詞を、ヒューズは今日も、飽きることなく呟いていた。


男子寮の部屋割りは、基本的に士官学校に在籍する4年間を通じて変更はない。
士官学校内のクラス編成が毎年変わることを考えると、あまりに融通のきかない措置だが、それも士官学校の厳しさなのだと、ここの教師たちは口を揃えて新入生に諭していた。
クラス編成の方は成績順だ。
そして、男子寮の部屋割りも、入学時の成績順で割り振られていた。
学年が変わるときに、ルームメイトの片割れがクラスを落ちた場合の気まずさを、できるだけ生まないように。
また、違うクラスの者同士がルームメイトになった場合の軋轢をできるだけ回避できるように。
…なんだか先程の教師の言とは矛盾するような理屈で、である。

――で。
当然ながら、ヒューズにもルームメイトはいるはずだった。
3日前の入寮日に配られた部屋割りでも同室者の名前は確かにあったし、実際にその日、この部屋に戻ってきたら、ルームメイトのものと思しき荷物も置いてあった。
…机の上に鞄ひとつだけ。
それなのに、ヒューズはこの3日間――正確には3日目の昼に至るまで、一度もルームメイトの顔を見ていないのである。
こんなことがあっていいのか?
ヒューズは、眉を寄せて溜息を零した。
確かに始業式は明後日で、ヒューズ達新入生は入学式までのこの数日間に限り、まだ寮則にも縛られていない。
一応の入寮は義務付けられているが、それも入寮式にさえ顔を出していれば、深く追求されるものではなかった。
どこに行こうと、どう過ごそうと自由だ。
わかっているが、つまらない。
部屋にはたいした娯楽もないのだ。
教材を貰っているわけでもない。私物を持ち込んでいるわけでもない。
せめて話し相手くらい居てくれないと、ヒューズはどうにも落ち着くことができなかった。
そして、つまらない以外にも、理由があった。
単純に、興味があったのだ。自分のルームメイトに。
1ヶ月ほど前に行われた入学試験、ヒューズは首席で合格した。
ヒューズの同室者は、やはり成績が近いものということで割り振られているので次席入学者ということになるのだが、その点差が、なんとほんの2点だったらしいのである。
多数受験する試験の中で2点差など珍しいものではないかもしれないが、3位以下ぶっちぎりの成績で、となると話は別だ。
実力が拮抗したものと接するのは、きっと楽しいだろう。
試験が全てではないから、その期待が当たるか外れるかはわからない。
もしかしたら何の面白みもないガリ勉くんかもしれないのだけれど。
とにかく、ヒューズはその次席入学者でありルームメイトである男と話がしてみたかった。
それなのに。

「…なんで3日間も姿が見えねーんだよ…?」

今日もしんと静まり返った一人の部屋で、ヒューズはガックリと肩を落として呟いた。



2005.12.21 文月 優


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