やきいも |
「か〜ずはぁ。」
「なに?」
「ちょおこっち。」
冬でも相変わらず黒い平次に、コイコイと手招きされ、和葉は方向転換してそちらに向かった。
制服に紺のコートと白いマフラー。
それでも息が白いこの気温では、やっぱり寒い。
家へ近道しようとして横切った公園の木々も、もうすっかり葉を落として、寂しそうである。
「どうしたん?」
平次のいる場所までやってきた和葉が、首もとのマフラーを軽く摘んで、そこに顔を埋めながら尋ねる。
と、平次がにっと笑って指をさした。
「見てみ、あれ。」
「あれ?」
少し場所を移動して、平次の前に立ってみる。
示された方を見てみると。
「あ!焼き芋やん!!」
「な。食ってくやろ?」
言いながら、返事も聞かずに平次はそちらに歩き出す。
もちろん、異論のない和葉も、それに続いた。
「奢りやろ?」
「なんでオレが奢らなあかんねん。」
「そら、可愛い彼女が寒くて震えてるからやん。優しい彼氏の常識ちゃう?」
にこにこ笑う和葉に、平次は半目になりながらも、財布を出す。
「・・・可愛い・・・かいな。」
「なんか文句あるん?」
「大有りや。」
「なんやて!?」
「おっちゃん、一本ちょうだい。大きいのな。」
「ちょぉ平次!」
平次に声を掛けられた焼き芋のおじさんは、『ヘイ毎度♪』なんて言いながら、言われたとおり立派な焼き芋を紙袋に入れてくれる。
和葉は、平次の腕を捕まえて自分の腕を引っ掛けると、ひょこりと紙袋を覗き込んだ。
「おとなしく待っとれ。」
「しゃーないな。」
「なにがしゃーないねん。」
渡された紙袋と代金を交換した平次は、片手にくっついた和葉を振りほどくでもなく、反対の手に紙袋を抱えて焼き芋の屋台を離れた。
「この匂い、ええなー。幸せやわ。」
「簡単なオンナやなー。」
「ほっとき。これがあんたの彼女や。」
「考え直そか。」
「できんくせに。」
「言うとれや、あほ。」
先程歩いていた公園まで戻って、ベンチに座り、袋を開ける。
ほわりと上がる白い湯気。
嬉しそうな笑顔が、平次の視線の先、白い湯気に包まれて見えた。
「・・・ま、ええか。」
「は?なにが?」
「・・・なんでもあれへん。」
なんとなく、おかしくて平次は笑う。
「なぁ和葉。」
「なに?はよ焼き芋取って。食べよ。」
和葉の視線は、紙袋の中に一直線で。
平次は、ほんの少し呆れながらも、やっぱり暖かな気持ちで笑みを浮かべた。
「まぁ待ち。イモの前に、ちょぉこっち向けや。」
「なんで?」
言いながら、視線を上げた和葉を、平次は捕まえる。
「よっしゃ。」
誰もいない公園を確かめて。
和葉を軽く引っ張って。
触れた頬が思ったよりも冷たいことに、少しだけ驚きながら、キスをした。
「さ、食お。」
「・・・平次。」
「おお。ほれ、半分。」
「・・・アンタなぁ。」
目の前で割られた焼き芋からは、もう一度真っ白な湯気がほわりと浮かんだ。
「・・・いらんならもらうで。」
「・・・・・・食べる。」
なんとなく納得がいかない和葉は、それでもほくほくした芋をほおばって。
もぐもぐと食べ始めた。
「・・・なぁ、食べた後じゃあかんの。」
「・・・別に、ええんちゃう。」
「・・・・・・なら、ええ。」
「そうか。」
平次が笑う。
「ヘンなオンナやなぁ。」
「だから言うてるやん。そのヘンなオンナがアンタの彼女や、諦め。」
「最近おまえ、開き直ってへんか。」
「慣れただけや。」
ガサリと音を立てて、平次が紙袋を抱えたまま立ち上がる。
「歩こか。」
「・・・うん。」
片手に焼き芋。
片手に、大好きな人。
「こんな冬なら、大歓迎やな。」
呟いた和葉に、平次が呆れたように笑った。
〜fin〜
やきいも、今年は食べなかったなぁ・・・。
2002.11.29 ポチ